『What do you want ……?』



歓喜の声。
僕の名前を呼ぶ声。
≪英雄≫と言う名の、僕を呼ぶ声。

「えーゆーさま、じゃあ――――!!」 
「英雄さまだ!!」

僕は、こんなこと望んでなんかいなかった。

「エル・レイストル……ここで汝らに"英雄"と言う称号を与える」

……地位も富も、そんなものを手に入れるために剣をふるったんじゃない。

ただ……―


歓声が遠く、聞こえた。

           *    *    *
「どうしたんです、エル……疲れたんですか?」
そう話し掛けてきたのは、僕と同じように今では英雄の一人に数えられている僕の旅の仲間だった。
そう僕達は永い旅の終りを今日、この地で……≪英雄≫と言う称号も地位も 得て、文字通りの"ハッピーエンド"で迎える事となった。
僕達の旅の目的は、この地を長い間圧政し続けてきた、≪魔王≫と名乗っていた哀しき男を倒し、この地に"平和"を取り戻すと言ったものだった。
そして、それは勿論…まるで最初から決まっていたかのように…最高の終り方をしたといえる。何の犠牲もなく……勿論、苦労が無かった訳ではなかったが……静かに"平和"はやって来た。驚くほど自然に。今までの、あの暗い雰囲気が嘘のように。
こんなにも"平和"と言うものは簡単なものだったのだろうか?
…だったとしたら、僕達が戦う必要はあったのだろうか?
何時からだろう?こんな考えを持つようになったのは。
≪魔王≫を倒す前もそうだった……結局、みんなには言えなかったけど。
旅に出るって、≪魔王≫を倒すって決めた時は、何の迷いも無かったのに……
「エル?」
黙り込んでいた彼・エルの顔を下から覗きこむようにして、彼女は不思議そうに問い掛ける。
「どうしたんです?……黙り込んでしまって……そんなに疲れたんでしたら、先に休んでくださっていて良いですよ?」
彼女は何時もこうだった。
他人の事ばかり気にして、自分の事には呆れるほど興味がない。
旅を終えた今でも、それは変わることはない。
「ううん、大丈夫……ただ考え事をしていただけだよ」
「そうですね。行き成り英雄だなんて言われるのも、何かこうシックリこないですもんね」
彼女は僕が、その称号に戸惑っているのだろうと解釈したらしい。
実際、当てはまらないとも言いきれない。だが、彼女の場合は自分もそうだから僕も…と言った具合だろう。ただの偶然だ。
でも、僕は仲間の中で彼女にだけは心を許せる気がした……少なくとも、他の仲間よりは。
こうやって僕を特別な……完璧な、迷いや傷付く事を知らない存在だと思っ ていないだけ救いようがある。
僕は彼女の質問に軽く相づちを打ち、そしてニコリと笑って見せた。
「ありがとう」と礼を告げて。
彼女は軽く頬を赤らめて、遠慮気味に手を振って否定する。
「別に……ただ、私は…・」
そう言う彼女を横目に、僕は彼女の長く後ろで軽く結われたその金色の髪に目をやった。
それに気付き、彼女が不思議そうに小首を傾げる。
―あの人と同じ……金色の髪
頭をよぎる、"あの人"の姿。
そう"あの人"に会ってから、僕の中の迷いは強く、そして濃くなった。
小首を傾げる彼女に
「ああ、ごめんごめん……綺麗だね、その髪」
「えっ!?そんな……ありがとうございます」
彼女は照れながら、そう小さく礼の言葉を述べた。
「旅の間中、何か手入れでもしてたの?」
………………………
            * * *
「なぁ、エルー。頼むよ―」
そう懇願してきたのは、飛び込み隊長の異名を持つ『レイ・ストレンジスト』。ちなみに、先に話していた彼女は『リジェ・ストレンジスト』。名が示す通り、れっきとした兄弟である。だが性格は、まるで正反対だった。
こいつ、レイもリジェと同じく≪英雄≫の一人に数えられる僕の仲間だ。
≪飛び込み隊長≫と言う異名の通り、戦いでは何時(いつ)も先頭を切って戦っていた単純明快、支離滅裂な奴。
僕は、こいつがどうも好きになれなかった。
「な、この通り」
僕を神様か何かみたいに、両手をあわせて彼は懇願していた。
「そう言われてもなぁ」
彼が、そんなにも何を願っているかと言うと
「…シエルさまとの仲を、とりもってくれ…なんて」
シエルさまと言うのは、この国の唯一にして絶対の王女様である。
王子がいないこの国で、後を継ぐとしたら王女であるシエル様だけだと、何度か、ちまたの噂で聞いた事がある。
王様も長くないとのことだから、姫の婚約者……つまり未来の王を、王宮は死にもの狂いで探しているだろう。
僕は、その姫ことシエルと仲が良かった。
別に恋愛感情を抱いてるとか、そう言うわけではなく、ただ、よく話せる女友達として。
「お願いだよ〜〜エル〜〜〜」
お前は女か、とか突っ込みたくなった。
…まぁ、それは置いといて…取りあえず、このこげ茶色の短髪の男は、その姫と婚約者になって成り上がろうとでもしているらしい。
魂胆(こんたん)が見え見えだ。
僕は、こいつのどん欲で向こう見ずで、人に頼むことしかのうのない…そう言うところが嫌いだった。リジェは何時も、そのお願いを一つも零さずに叶えて、実質レイの小間使いになっている。凄いというか、呆れるというか…。
溜め息を付きながら
仕方ない……
「あー、もう。分かったから」
僕は仕様が無く、それを引き受けた。
       
   
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