+第一章+




その頃、地上界ではゆっくりと春が近づいてきた。 大きなお屋敷から蒼碧色の瞳の少女が大きなドアから顔を出した。 今日は、赤と黒を服に纏い、手には大きな花束が握られていた。 果てしなく続く空を見上げる。 意味もなく流れていくいくつもの雲。 桜草をそっと揺らす風。 そんな空から目を離し、長い道を歩いて行く。 後ろからじいがついてくる。 『きさら様、ご一緒します』 少女は首を振って 『ううん、今日は1人でいかして・・・』と、じいをとめた。 『しかし・・・』 後ろでは心配そうにきさらを見ている、義母と義父。 少女はじいを置いて再び歩き出す。 そして少女は2時間ぐらい歩いたところで足を止めた。 ついた場所は森の中の小さな丘。 小さな名もなき花達が咲き誇っている。 近くには今はもう使われていない教会が佇んでいる。 使われなくなり、少し黒くなった白の建物。 少女は春になるとそこに行くのが年間の行事になっていた。 大きな花束は教会の中の女神エヴァとの十字架の前に掲げるのだ。 少し萎れた花を水につけ、十字架の前に置く。 じいと離れるまでの笑顔とは正反対に 綺麗な瞳に涙を溜めて手を握る。 瞳を閉じると同時に一筋の涙がピンク色の頬を流れる。 何かを願うようにしばらくその場を離れずにいた。 「どこに・・・どこにいるの?」 と、ずっと問い掛けるように・・。 お母さんとお父さんと離れて10年。 5歳のときに・・・・と、いっても顔さえも覚えて覚えていない。 おお泣きする自分しか頭に浮かばない。 なんで・・・ どうして・・・ 私を置いていったの? ・・・・・・ すっと目を開けて立つ。 赤いジュータンを歩き、扉を開けて外に出る。 少しコケのついたドアを綺麗にして、扉を閉める。 心のどこかにこの風景を焼き付けるように・・・。 そしてまた小さな丘にのぼり、横になる。 ふっと吹き抜ける風はまだ冷たくて。 しばらくすると眠気が少女を襲い 少女は眠りに落ちた。 そして、花は小さな少女を支え、時間だけが過ぎていく。 by 鷹之倉翠
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送