『赫と羽根と笑顔……そして涙と虹』
不幸な境遇、離れ離れの家族…あともう少しで幸せに戻れたのに…
笑って生きていこうと決めた。
お母さんが出ていって、家族が壊れた、あの日から…。
そばには妹だけが、泣いていた。その手は離れることなく、しっかりと僕の服を掴んでいる。
その涙は永遠に流れるかと思うほど、たくさん流れては消えていった。
…でも僕は泣けなかったんだ。お母さんが行ってしまうのに。お父さんが捨てていくのに…。
ただ泣く事で、妹がこれ以上哀しくなるのだけはしたくなかったんだ。
……こんなクダラナイ世界のためになんて泣かない……ただ笑っていてやろうと思った。それは妹への励まし、助けてくれる人達への御礼……それはクダラナイ世界の住人への当てつけなのかもしれなかった……。
何時の間にか、生活は良くなっていた。
色々な人が助けてくれる。
妹も、また学校に行くようになった。
……そして、僕達が笑顔を絶やすことは一日として無かった。
そしてあの日……あの赫い炎を見たあの日。
僕は悟ったんだ。
幸せそうに寝息を立てる妹……きっと、良い夢でも見ているんだろう。周りの状況も知らずに……。
そう言えば僕も今日良い夢を見た……お父さんとお母さんと妹でピクニックに行く夢だった。そこでも僕達は笑いを絶やすことは無かった……本当に、幸せだった。
もう帰って来ない日々。
――もう僕たち楽になっても良いよね?…もう疲れたんだ…ずっと笑顔でいるのは――
熱い雫が頬を冷やして、すごく気持ちが良い。
――もう泣いても良いんだよね?――
『もうすこしで、幸せにしてあげられたのに…』
――ううん…それは違う。僕達は今までだって、幸せだったんだよ。ありがとう――
――ただね…疲れたんだよ。笑顔でい続けることに……だから、ごめんね――
赫い炎を包み込むように、雨が降る。その周囲だけは雨が降っているのに暖かかった。
「…あ、お兄ちゃん。虹が咲いてるよ」
炎が消え、やがて自分達が住んでいたという跡も無くなるだろう。
燃え残った紙切れが宙を舞う……まるで羽根のように、軽やかに。
崩れかけた家に黒いモノが二つだけ、寄り添うように。
しっかりと結ばれた手は、決して解けることはない。
それを見つけて、羽根は舞い降りる……つないだ手にフワリと……。
……それは寝顔……笑顔の寝顔。
今日も雨の痕には 虹が咲く……。
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